七夕の友の帰国 心の充電はゆっくりたっぷり

七夕の友の帰国 心の充電はゆっくりたっぷり

久々の、そして突然の帰国だった。
いつも明るい友人は、今回は少しお疲れ気味だった。
彼女はあまり口にはしないが、異文化の中で長く生活していれば、私が体験したことの無い苦労もあるだろう。
それでも忍耐強い友は、良き伴侶と共にそんな苦労の波を一つ一つ乗り切ってきた。
だがどんなに穏やかに生きようとしていても、嵐はやってくるものだ。病気、不景気、天災等々。
今回の予期せぬ、そして次々と押し寄せた嵐に、さすがの友もダメージを蒙った。
そんな心と体をリフレッシュするための帰国。とのことだったので、私は自分のしょうもない経験を語るより、心が少しでもスッとするような本を贈ろうと思い、次の一冊を選んだ。

上野千鶴子著 『身の下相談にお答えします』 朝日文庫

読んで字のとおり、恋愛、不倫、夫婦仲、といった「身の下」の方の悩みを抱える方々の切実な悩みに答えている本である。
実際に朝日新聞に読者からお悩みが投稿され、それに相談員が答えるコーナーを上野先生が担当したことがあり、その連載をまとめたものだそうだ。
上野先生への評価は様々だろう。私の場合は、思いがけない気付きを得られるのと、男目線な既成概念への「言い返し方」を学べる、という前向きなイメージを持っている。

さて、そんなケンカ上手な上野先生の本は、最初の1ページ目からかなり飛ばしている。
職場の既婚女性と浮気しそうな自分をどうにか止めてくれ、という既婚男性のお悩みから始まっている。本人の感覚では相思相愛で、お互い目がハートなんだ、と。
その女性はたまたま自分の夫に不満があって手近なその男性で気晴らししているだけかもしれないのだが、男性の方は超真剣に自制心が保てないと訴えている。
これに対する上野先生のお答えは、「あはは」から始まり、選択の先に待ち受ける明暗を、肯定も否定もせずに明るくばっさりとお見舞いする。
介護問題や母娘関係といったシビアな質問もあるが、上野先生は軽妙な語り口で、時に明るく、時に厳しく、人生の行く手にそびえる山の美しさと険しさ、谷の深さと恵みを語りかける。
質問そのものに笑ったり、上野先生の言葉に胸が少し痛んだりしながらも読み終えてみると、「みんなも大変なんだなあ」と思ったり、「娘は、妻は、女性は、社会人はこうあるべき」という思いこみを我知らず抱えていたことに気づいたりして、少しだけ肩の力が抜けて前を向く気持ちになれた。

七夕の友とはこれからの人生についてあれこれと話した。答えは出ない。
お互いに悩みや痛みを抱えているけれども、賢明で忍耐強い彼女の未来は、きっと良い色をしているだろう。
帰りの飛行機の中で、ちょっとでも笑って気が晴れてくれたら幸いである。